何処か陰湿な気配のする声音だったが、私は逆に明るく振る舞おうとした。

「やだ、篤郎さんったら。私、朝子じゃありませんよ!離してください」

 何があったのかは結局分からなかったが、あの後、姉は家を出たのだろう。

 それで、義兄は私を朝子と勘違いしたのだ。

 私は篤郎に異様な雰囲気を感じながらも、無理やりに納得しようとした。

 だが―――

「二度と離すものか」

 低い男の声が、私の楽観を打ち砕いた。


 それからはまるで、悪夢のようだった。