「お、奥さんじゃありません。ワタシは……独身です」 会話の最中も、天井に向かってのぼる湯気。 椅子の柄にヴェールをかけるようなそれがうっとうしく、匠が視線を落とすと。 ――このカップ……。 ココアが入っているカップは、姫子がラテ・マキアートを啜っていたものと同じだった。 『お姉ちゃん、髭生えてる……』 『えっ、あ、ヤダ……ふふふっ』 ふと思い出される、大好きだった佐伯姫子の声に、匠の視界が揺れる。