「あっ、桜庭先生!」


中から現れたのは、体格のいい40代後半くらいの男性だった。


着ているブレザーとスラックスがどちらも黒で、パッと見、熊のようだと匠は思った。


著者近影などで事前に目にしていた「田中秋」とは、明らかに別人だ。


「ご無沙汰しております、田中さん。でも『先生』はやめてください……。わたしはもう、漫画家じゃないんですから」


「いえいえ。また機会があればご一緒に仕事したいくらいなんですよ。できればうちの先生の原作でふたたび」


「もう画力は落ちてますって」


「またまた。ブランクはセンスで十分取り戻せますよ……ん?」