「あ、危ない!!」 姫子の叫ぶ声とバッグが地面に落ちる音がした。 匠は、その音の鳴るほうへなんとか身体をひねって手を伸ばしたが、小さな体躯が災いして姫子に届かず、口紅ごと転げ落ちてしまった。 「匠っ!!」 「き、君!大丈夫か!?」 誰かの声が一瞬交錯する。 幸いにして、大階段には踊り場があったため、数段の落下で済んだのだが。 「……っあああああっ!!」 とっさに頭をかばっていた匠は、けれど下肢に激しい痛みを覚えて悶絶びゃく地した――。