大階段から落ちようとしているそれは、さっき姫子が抱きついた拍子にバッグからこぼれたものかもしれない。 だとすれば、拾ってあげなければ。 「ねえ匠くん、さっきお姉さん口紅落としたんだけど――」 戻ってきた姫子が声をかけるのと、匠が拾おうと走ってかがむのとは、ほぼ同時だった。 筒状のもの――口紅が、階段を一段落ちる。 手をめいっぱい伸ばす。 だが、不規則な動きをするそれを掴めず、代わりに全身がぐらりと揺れた。