「いいよ、愛斗君」
「あれ?俺何か悪いこと言うた!?」
「ううん。大丈夫よ」
にっこりと笑う志保さんが、何だかとても頼りない。これはもうそっとしておいてあげたい。いくらサディストの俺でも、こんな痛々しい同族の姿は見たくない。
けれど、そんな俺の思いに反して、志保さんはふっと短く笑って俺の頭をポンッと撫でた。
「元はね、私とアキちゃんは同じ事務所で働いてたのよ」
「あぁ!メーシーが移ってくる前の事務所?」
「そうそう。暫く続けたんだけどね、どうも上手くいかなくて」
「一緒に移籍したら良かったのに」
「出来なかったんだよ。俺が麻理子に無理やり引っ張られたから」
「わお。おかえり」
「勝手にペラペラ喋ってんじゃねーよ」
腕組みをして不機嫌にそう言ったメーシーを見上げ、志保さんは笑った。
「別にアキちゃんの昔話してたわけじゃないわよ」
「同じだろ。幼なじみなんだから」
「はいはい。どうもすみませんでした」
席を譲る形で立ち上がった志保さんは、そのまま小さく手を振ってキッチンの奥へと消えて行った。
アキちゃんモード全開でいつになく不機嫌なメーシーを前に、漸くケイさんは自分の犯した失態に気付いたらしい。俺の隣で相変わらずへの字口の聖奈を見て、「ごめん!愛斗!」と両手を合わせた。
「いや、俺は別に構わないですよ」
「でも…セナごっつい顔しとるで」
「大丈夫です。コイツは今、色々呑み込もうと必死になってるだけですから」
出来ればそうであってほしい。そんな願いを込めながら、取り敢えずそんな言葉を並べてみた。
「事の発端は?」
「ここにはいない人」
「志保?」
「いや、prince」
そうだ。撒くだけ撒いてさっさと消えてしまった悪の王子がまだ戻って来ていない。事務所に行ったはずなのに…と扉に視線を遣る俺を無視して、メーシーはいつもより低い声を押し出した。
「そう言えば、ケイ坊に残念なお知らせがあるんだけど」
「え?残念?」
「奥さんが来てるよ」
「はあっ!?」
「もう着くと思うけど」
そう言い終わるか終らないかのうちに扉が開き、俺はケイさんの奥さんと念願の初対面を果たした。
「あれ?俺何か悪いこと言うた!?」
「ううん。大丈夫よ」
にっこりと笑う志保さんが、何だかとても頼りない。これはもうそっとしておいてあげたい。いくらサディストの俺でも、こんな痛々しい同族の姿は見たくない。
けれど、そんな俺の思いに反して、志保さんはふっと短く笑って俺の頭をポンッと撫でた。
「元はね、私とアキちゃんは同じ事務所で働いてたのよ」
「あぁ!メーシーが移ってくる前の事務所?」
「そうそう。暫く続けたんだけどね、どうも上手くいかなくて」
「一緒に移籍したら良かったのに」
「出来なかったんだよ。俺が麻理子に無理やり引っ張られたから」
「わお。おかえり」
「勝手にペラペラ喋ってんじゃねーよ」
腕組みをして不機嫌にそう言ったメーシーを見上げ、志保さんは笑った。
「別にアキちゃんの昔話してたわけじゃないわよ」
「同じだろ。幼なじみなんだから」
「はいはい。どうもすみませんでした」
席を譲る形で立ち上がった志保さんは、そのまま小さく手を振ってキッチンの奥へと消えて行った。
アキちゃんモード全開でいつになく不機嫌なメーシーを前に、漸くケイさんは自分の犯した失態に気付いたらしい。俺の隣で相変わらずへの字口の聖奈を見て、「ごめん!愛斗!」と両手を合わせた。
「いや、俺は別に構わないですよ」
「でも…セナごっつい顔しとるで」
「大丈夫です。コイツは今、色々呑み込もうと必死になってるだけですから」
出来ればそうであってほしい。そんな願いを込めながら、取り敢えずそんな言葉を並べてみた。
「事の発端は?」
「ここにはいない人」
「志保?」
「いや、prince」
そうだ。撒くだけ撒いてさっさと消えてしまった悪の王子がまだ戻って来ていない。事務所に行ったはずなのに…と扉に視線を遣る俺を無視して、メーシーはいつもより低い声を押し出した。
「そう言えば、ケイ坊に残念なお知らせがあるんだけど」
「え?残念?」
「奥さんが来てるよ」
「はあっ!?」
「もう着くと思うけど」
そう言い終わるか終らないかのうちに扉が開き、俺はケイさんの奥さんと念願の初対面を果たした。

