「志保さん、何でカフェやろうと思ったんですか?しかもここで」


前々から疑問に思っていた。以前一度メーシーに尋ねたところ、「偶然って怖いよね」と上手くあしらわれてしまったのだ。

そんなはずないだろ!と言えなかったのは、メーシーの本性を知ったばかりだったからかもしれない。

「このお店、アキちゃんが出してくれたのよ」
「はっ!?」
「私、実は愛人なの」
「笑えねー」
「あら。笑うところよ」

うふふっ。と、笑っているはずなのに。

それが真実だとは思わない。
けれど、志保さんはとても悲しげだった。

「私ね、元々ヘアメイクだったの」
「へぇー。ほんなら、メーシーと同じ学校やったん?」
「そうなの。でも、全然違う道に進んじゃったけどね」
「何で一緒にJAG来んかったん?」
「まぁ…ね」

悲しげに伏せられた瞳が、これ以上は話したくないと訴えている。けれど、残念なことにケイさんはそれが読める人ではなかった。

わざとではない。そう思いたい。

「メーシーに言うたらすぐ入れたやろうに」
「ちょ…ケイさん…」

悪気はないのだ。だから余計に傷付く。

ケイさんは、言ってみればちーちゃん側なのだ。白くて、明るい。俺達みたいに闇色の人間にとって、それはとても近寄り難く、時に痛い。