「志保さんもそんな経験あるん?」
「あるよ」
「へぇー。意外やな」
「そう?せっかく召喚して大事に育ててきた悪魔がさ、オッドアイのシスターに一目惚れしちゃって」
「え?」

何の話しだ。と首を傾げるケイさんに、志保さんはとても楽しそうに「知りたい?」と問う。

いや、いいから言わないで。

とは言えない空気だった。

「大好きな幼なじみがね、ある日突然編入してきた帰国子女に取られちゃったの」
「それって…」
「あの時はさすがに「ふざけんな!」って思ったね。でも、やっぱりそれは言えなかったなー」

懐かしげに目を細める志保さんは、俺の記憶が正しければうちの父親の幼なじみで。そしてうちの母親は、ある日突然編入してきた帰国子女だったはずで。

嗚呼、どんどんトラブルの火種が増えていく…と、いくつ火種を抱えているのか自分自身でも把握出来ていない状態まできてしまった。

そんな俺に、志保さんはやはりお馴染みの笑い声を聞かせてくれた。

「愛斗君にとったら、きっと聖奈ちゃんがそうなんだろうね」
「何の話っすかね。俺を巻き込まないでくださいよ?」
「巻き込む?何の話かなー、ふふっ」
「いやいや」
「今まで年下と付き合ったことは?」
「無いっすね。年上キラーだったもんで」
「だったらそうじゃない。珍しいと思わなかった?聖奈ちゃんのこと」
「まぁ…思ったかもしれないですね」

年下だから、という理由ではなく、聖奈自体を珍しいと思った。ここまで徹底して「真っ白」として育てられてきた女は貴重だと思ったし、それを俺色に染めたいとも思った。

そして、染まったのが今。聖奈は立派に闇色ファミリーの仲間入りを果たした。

「あのシスターがいなかったら、私はきっと結婚出来てたな」
「志保さん結婚してへんの?」
「そうなの。悪魔が戻って来るの待ってたら、完全に婚期逃しちゃったんだ」
「俺らの一つ上やっけ?」
「二つかな。アキちゃんの一つ上だから」
「まだいけるやろー」
「うふふっ。どうだろ」

口元に手を当てて笑う志保さんは、黙っていればどこかのお淑やかな奥様に見える。

いや、本性さえ知らなければそう見えるだろう。

異様に容姿が若い人物が揃ったこのグループの中で、それなりに年相応な唯一の人物。それが志保さんだ。