「恋愛は苦手みたいやったなー」
「まぁ、苦手なものの一つくらいあってもらわないと」
「学生時代の彼女は俺の嫁やし、無理やり一緒に上京さした幼なじみは今や義理の妹。んでもって、惚れたモデルには二股かけられた挙句、そのモデルは仲間と結婚してまうしな。散々やったで、あいつの恋愛は」
「いや…どこからツッコミましょうか」
「どこからでも」

まるで「えへん」とでも言いそうなくらい胸を張ったケイさんは、おそらく忘れているのだろう。俺の隣で口をへの字に曲げている少女が、自慢の親友の娘だということを。

「義理の妹って…レイちゃんのことですか?」
「せや。玲子は晴人の幼なじみ」
「そう…ですね。と言うことは、レイちゃんは昔ははるの恋人だったってことですよね?」
「せやで」
「いや、いいんですか?そんなことコイツに言っちゃって」
「ん?時効やろー。ちーちゃんにバレんかったら大丈夫やって」

あははーと普段の笑いを取り戻したケイさんは、正真正銘のお気楽人間なのか、はたまた思慮深いのか。

とても後者とは思い難いけれど、出来ればただのお気楽人間では終わってほしくない。それが同じ事務所の後輩としての願いだ。

「ハルさんの弟さんって、確かミュージシャンでしたよね?」
「おぉっ。知ってるか?」
「何か…昔うちの女王様が一緒にジャケットとかポスターやってませんでしたか?家にあるんですけど」
「せやねん!あいつらのデビューの時の撮影、俺らがやってん」
「へぇー」

これはこれは縁深い…と感嘆したのも束の間。漸く活動し始めたはずだった聖奈が、再び口をへの字に曲げた。

これは…実に面倒くさい。

放置の方向で話を進めようとして、少し躊躇う。それを見逃さないのが、我が家の悪魔を育てた魔女だ。

魔の本家本元は、「うふふっ」といつもの呪文を唱え、すっかり眠ってしまった美緒の頬を突きながらチラリと俺を見た。

「ケイちゃん、ハルちゃんから彼女奪っちゃったの?」
「まぁ…奪った言うか、押し付けられた言うか…」
「気にしてるんだ」
「昔ほどは気にせんようなったけどなー」

ここは任せるか。と身を引いた俺に、魔女は再び呪文を唱えた。

「ひとの心なんてすぐに変わっちゃうからね」
「怖いこと言わんといてやー」
「変わっちゃうよ。パッと物珍しいものが出てきたら、すぐそっちに取られちゃうんだから。ね?愛斗君」
「いや、色々返答に困るから俺に振らないで」
「あらら。心当たりが?」
「無いっすよ」

ここはそう断言するべきだろう。しなければ、うちの家庭内は確実に不仲になる。うちまで巻き込まれては敵わない!と色々と心当たりを揉み消した俺を、誰も責めはしないだろう。