改めて向き合ったケイさんは、やはりどこか寂しげで。いつでも笑顔のイメージしかない人なものだから、違和感ばかりがもやもやと空気を澱ませた。

「好きっすね、ハルさんのこと」
「せやな」
「羨ましいです。そうゆう関係」

色々と言葉を探してみたのだけれど、あまり良いものが思い浮かばなかった。この空気のせいだけだとは言い難いけれど、それが少なからず足を引っ張っていることは事実だ。

「一目惚れ、やったからな」
「ハルさんに、ですか?」
「せや」

ハルさんの話をする時、いつでもケイさんはとても自慢げで。それで少しでも気分が晴れるなら。と、俺は笑って頷いた。

「初めて会うたんは、高校の入学式の時やったわ」
「そんな長かったんですね」
「せやで。入学試験でトップやった奴が同じクラスやって聞いてな、どんな奴やろーって見てみたらあれや」
「あれって…」
「何て言うんかなぁ…あっ!ほら、王子!」
「王子?」
「メーシーがいまだに晴人のこと王子って呼ぶやん?あれ、俺が晴人と知り合うた時の話したからやねん」
「そうだったんですか」

アラフィフがアラフィフを「王子」と呼ぶ。俺の周りでは、そんな恥ずかしいことが当たり前に行われていた。

「何かさぁ、めっちゃ輝いて見えてん」
「昔からあんなだったんですか?」
「昔はもっとやで」

確かに、ハルさんは年のわりには若いし、モデルだと言っても通じる容姿をしている。カメラを構える姿など、男の俺でもため息を吐きたくなるほどイイ男だ。

「ごっつモテてな。男も女も皆あいつの周りに集まっとったわ」
「うわ…ホントに王子」
「やろ?そん中でも俺が一番仲良かったんやで」
「どこが好きなんですか?」
「どこが…難しいな」
「やっぱ、どこか惹かれるから親友なんですよね?」

人間なんて、極々単純な生き物だ。惹かれるから近付くし、惹かれるから傍に居続けていられる。何も感じないのならば、何もその相手でなくとも良いのだ。

それは、男女だろうが男同士だろうが同じだろうと思う。

「俺は…せやな、晴人みたいになりたかってん」
「憧れってやつですね」
「せやな。皆そうやったと思うで。勉強もスポーツも器用に何でも出来るし、カッコええし、モテモテやしな」
「褒めますね」
「おぉ。晴人は俺の自慢やからな」

でもな。と、ケイさんはニヤリと口の端を上げて笑った。

「実はめっちゃグルーミーで、不器用なとこもあるんやで。特に恋愛」
「あー…何かわかる気がします」

完璧に見える人間にでも、欠点の一つくらいはある。例えば妻を愛するが故に子供達に愛情不足を訴えられたり、例えば恋人に異常な執着をしてみたり。まぁ、これは佐野家のほんの一例だけれど。