state of LOVE

押し黙る俺と、そんな俺を見て楽しそうに笑っているレベッカ。その間で、愛里はとても居心地が悪そうで。何度か大袈裟に呼吸をして酸素を胸に溜めたかと思うと、か細い声が聞こえてきた。

「佐野君、ごめんね?」
「お前が気にすることじゃねーよ」
「でも…」
「でも、禁止。はい、コーヒー」
「あっ…ありがとう」

あんな態度を取られれば、初対面の愛里は気にして当然だ。

けれど、あの態度は愛里に向けられたものではない。それがわかっているからこそ、俺は最後の最後まで我慢したのだ。

「ベッキー」
「ん?」
「ごめん」
「マナが謝ることないじゃない」
「いや、誘ったの俺だし」
「そうね。無責任に一人でどこかへ行っちゃうから」
「ホント…ごめん」

コーヒーカップを取ろうと伸ばされた手を取り、さっきと同じように指先へそっと口づける。頼りなく笑ったレベッカは、アイスブルーの瞳を伏せた。

「今度はうちの実家にしよう」
「それはそれでマリコに嫌がられるじゃない」
「マリーはお前のことは嫌ってない。ハルさんじゃなくて俺が誘ったのが気に入らなかったんだろ、アイツは」
「だろうね」

聖奈の嫉妬の矛先は、間違いなくレベッカに向いている。多少愛里のことも気にはしただろうけれど、眼中に無いと言ってしまえばそれまでだ。

けれど、レベッカに対しての嫉妬は生半可なものではない。疑いは晴れたものの、聖奈はレベッカが大嫌いだ。

「kittyはマナを愛してるのよ」
「知ってる」
「知ってて怒るなんて、傲慢な男」
「調教し直しだな」
「あら。可哀想なkitty」

うふふっと志保さんを真似て笑うレベッカは、とても痛々しくて。細い体を抱き寄せると、「あっ」と小さな悲鳴が聞こえた。

「ん?」
「あっ…ごめんなさい。どうぞ続けて」
「んなこと言われて続けるわけねーじゃん」
「うっ…そうだよね。ごめん、空気読めなくて」
「愛里さ、天然?可愛いよね、そうゆうとこ」
「えっ…」
「マナ、手当たり次第は良くないと思うけど」
「俺はメーシーじゃねーからんなことしねーよ」

大きく両手を開いてレベッカを解放し、代わりにコーヒーカップを持ったまま固まる愛里の頬を指先で撫でる。

「俺のこと好きだったでしょ?」
「えっ…?」
「わかっちゃうんだよねー、そうゆうの」
「あの…えっと…」
「わーお。相変わらずsadisticな男」

こんな反応は嫌いじゃない。ドSの本領発揮とでも言うべきだろうか。俺の言葉に困る女の子の表情は、どんな表情よりも魅力的だと思う。

「あの…えっと…私…」
「別に隠さなくてもいいのに。レベッカだって俺のこと好きだよ。な?」
「そうね。じゃなきゃ、こんな俺様に付き合ってられない」