「美緒は元気?」
「おぉ。今はちーちゃんと一緒」
「それで上の空だったわけだ」
「ですね」

言葉数が少なくともわかってくれるレベッカとは、会話が楽だ。三木家にいると、嫌でもそれを痛感させられる。

本当に…あの家は大変なのだ。

「何?何の話?」
「マナのsteadyの話デスヨ」
「ステディ?彼女ってこと?え?佐野君の彼女ってレベッカちゃんじゃないの?」
「それ、よく勘違いされんだけど違うから」
「そうなんだ!」
「マナのsteadyは、photoartistのハルのdaughterデスヨ」
「え?え?」

どうやら、英単語だけでも日本人にはネイティブスピーカーの発音は聞き取り辛いらしい。首を傾げるその子は、じっと俺の顔を見つめて助けを求めていた。

「あー…俺の彼女、ハルさんの娘。ほら、特別講師でたまに来る」
「あぁ…えー!」

どこにそんな驚きポイントがあったのだろうか。日頃身内の相手を専門にしている俺には、最近のオンナノコの反応が理解不能だった。

「秋山さん、今度はどうしたの?」
「あっ、いえ。すみません」
「佐野くーん?」
「あぁ、先生の奥さんが、あの有名なMARIさんだって話をしたんですよ」
「え?マリって…あの?」
「そう。あれ、うちの母親の麻理子さん」
「えー!」
「マジかよ!先生すげー!」
「いいなー!」
「こらこら。そうゆうのを簡単にバラすもんじゃないよ?色々事情があるんだから」
「ダメでしたか?僕は母は誰かと尋ねられたので、正直に答えただけなんですけどね。これはこれは。気が利かずにすみません」

立ち上がってペコリと頭を下げると、レベッカが再び噴き出した。