色々と明け方まで話し込み、仕事だと言う大介さんとそのまま帰るらしいメーシーを玄関先まで送り、俺は悩んだ。

「部屋?…いや、和室かな」

途中で席を外したハルさんは、おそらく聖奈の部屋で眠っているはずだ。せっかくの親子の時間を邪魔するのも忍びない。俺なりの配慮のつもりだったのだけれど。

「帰ったんか」
「あぁ、起きてたんですね」
「目ぇ覚めたんや」

真っ赤な目をしてそんなことを言われても、説得力の欠片も無いというもので。まぁ、そこをツッコむほどデリカシーの無い男ではないつもりなので、「そうですか」と軽く流しておいたけれど。

「どないなった?美緒のこと」
「明日警察に届けます。大介さんも協力してくれるって言ってたんで、事情を話して美緒の母親を探してもらうつもりです」
「その間美緒は?」
「どうなるかは警察次第ですけど…手元に置いておけるようには頼んでみるつもりです」
「そうか」

ドサッとソファに腰掛けて、ため息を吐きながら視線を宙に泳がせるハルさん。尋ねたくせに、心此処に在らずとはどうゆう了見なのだろうか。これだから大人は…と吐き捨てたくもなるというものだ。

「何で落ちてんですか?」
「は?」
「見事なへこみっぷりですよね」

これで隠していたつもりだとは言わせない。俺の目は、たとえ明け方で眠気を訴えていたとしても節穴ではない。

「まぁ…なぁ」
「よくないです?初めてはハルさんだったわけでしょ?」
「いやいや。そうゆう問題ちゃうやろ」
「どう違うのか、俺にはわかりませんね」

過去は変えられない。

いつだったか、俺はちーちゃんにそう言った。だからこそ、これから先、これから得られる未来に意味があるんだ、と。

それをこの人も聞いていたはずなのに。

「いくら悔んだって、過去は消えてなくなりませんよ?」
「わかっとるわ」
「だったら、何をそんなに落ち込む必要が?」
「俺は…」

差し出したマグカップを受け取り、ハルさんはコーヒーを一口喉に通して重苦しいため息と思いを吐き出した。