「すみません。みっともないところをお見せして」
「いや、まぁ…それはええんですけど…」

大介さんの言いたいことはよくわかる。この人をよく知らない人から見れば、立派な二重人格者だ。にっこりと微笑まれて視線を逸らしたくなるのも無理はない。

「うちの父親、怒ると豹変するんです」
「あぁ、そうなんでっか」
「重ね重ねすみません」

ふふっと得意の笑い声で全てを包み隠し、メーシーは「メーシー」と呼ばれる顔に戻った。

これもこれで疲れるだろうな…と、思考を少しずつずらしながら気分の調整を図る。

「警察に届けた方がいいですかね?」
「せやなぁ…失踪届けみたいなんは出した方がええかもな」
「ですよね。その場合、子供ってどうなるんでしょう?」
「警察が保護するんちゃうか」
「ちーちゃんの時はどうしたんですか?」
「そりゃまぁ…」

実は、これが一番聞きたかったのだ。言葉を濁されてしまったけれど。

「違ったらすみません。ちーちゃんの時って、何の手続きもしなかったんじゃないですか?間違ってたら、ホントに申し訳ないんですけど」
「それは…」
「違いましたか?すみません」

一応謝罪の言葉を紡いでみるも、俺の予想は外れていないはずだ。でなければ、色々と話の辻褄が合わなくなってくるのだ。

「せや。言う通りや」
「そう…ですよね。いや、別に責めてるわけじゃなくて。俺は、美緒をちゃんと自分の子として育てたいんです」
「引き取って育てるんか?」
「はい。聖奈もそれで納得してくれてます」
「せやかて…」

唸る大介さんに、何と説明したら良いものか。父親の前では、あまり言いたくないのだけれど。

「僕は…美緒を守ってやりたいんです。愛してやりたい」
「赤の他人やのに?」
「はい」
「それは…何でや?」
「悲しい子供に…したくない。親の愛情を知らない子供にしたくない。たとえ本当の親じゃなくても、僕は美緒を愛してやりたいんです」

ゆっくりと視線を上げると、かち合うのは褐色の双眸。全てを見透かし、射抜く、俺にとって最強の瞳。

一度大きく息を吸って言葉を押し出した。

「愛されてなかったとは思ってない。でも、いつだって寂しかった。俺も、レイも」
「遠慮しちゃって。らしくないね」
「かもな」

今更責めるつもりはない。けれど、言わなければ伝わらない思いがある。特に他人様には。

「明日、美緒を警察に連れて行って事情を話します」
「その…方がええな」
「えっと…大丈夫ですか?お仕事のこととか。俺達が何か話すと、大介さんに迷惑がかかったりしませんか?」
「俺のことは気にせんでもええ。聖奈も了承しとるんやったら協力したる」
「ありがとうございます」

その道の人ほど、義理や人情に厚いとはどうやら本当だったらしい。

本やネットの知識も役立つけれど、やはり自分の目で確かめるのが一番だと実感した夜。