一億よりも、一秒よりも。

悲しむふりが出来るほど、俺は大人じゃなかった。
こういうことぐらい、うまく自分を偽れるようになったらいいのに。その方がきっと人生は楽になるに違いない。


「一回ぐらい」
 
気だるい身体を動かして、菜の花を掴む。

「好きだ、って言ってみれば良かったかな」
 
その香りを思い切り吸い込んだ。春の庭の、青い香り。

 
そのままオーディオの電源を入れた。
灯りはつけず、キッチンへと向かう。
 
小さな冷蔵庫を開けても、たいしたものは入っていない。
いくつか常備しているドリンクの中から発泡水を取り出す。