一億よりも、一秒よりも。

俺はふとデスクに視線を移した。先日河原で摘み取ってきた菜の花。

「ばいばい」
 
服を着ることもせず、彼女の背中に言う。ヘッドライトが菜の花を浮かび上がらせる。

「ばいばい」
 
ヒールを履いた彼女が、ドアノブに手をかける。


まるで他人事のようで、酷く現実的だった。
ごちゃごちゃとした小さな部屋の空気はちっとも重くならなかったし、湿っぽくもならなかった。

彼女が消えた玄関を見ても、何があるわけでもない。感慨深さも切なさも寂しさも浮かんでくるようで、沈んだままだった。


「エゴイスティックなままだったな」
 
零した言葉に返事はない。肯定も、否定も。