一億よりも、一秒よりも。

 *

「じゃあ」
 
シャワーを浴びることもなく、服を身に付けたキョウはそう言った。
窓の外からヘッドライトが彼女を浮き上がらせる。
車のスピードに合わせて、光はやがて消えていった。


「気をつけて」

送らなくて結構、そんな彼女に言葉を贈る。
まだそこまで遅くはない時間でも、悲劇は唐突にやってくるものだ。
 
たとえば、俺の口から。
 

と思ってみたものの、やはり言うことは出来なかった。
つまりそういうことだ。

「うん」
 
本当は強がっている。なんて雰囲気は彼女にはない。
いつもと変わらない表情で、玄関へと向かった。