【短編】『彼』はウソをつかない。





「…何言ってんの。私は至って普通。そんなこと言うカナがヘン」



「先生に当てられてもガン無視だし、常に右耳押さえてるし、何度呼び掛けても返事しないし…。まるで死体みたいにぴくりともしないで…」



カナの顔が青ざめている。



唇まで震えている。



よっぽど気にかけてくれてるんだな。カナは優しい。



「耳、どうかしたの?中耳炎?」



まぁ、カンチガイもいいとこだけど。



「中耳炎とかなったことないや。耳押さえてるのは~『彼』の声、よく聞くために決まってるでしょ?」




「………カレ?」



ああ、いけないいけない。



カナに『彼』 の声は聞こえないんだった。



「そう、彼。メイ~メイ~ってずっと言ってるの。それしか言わないの」



ふふ、なんて笑っちゃう。



確かに頭の中で声がするなんて気持ち悪い。



誰かも分からない。いや、そもそも私の幻聴かもしれない。



でも、『彼』はいる。



私が何を思おうと、『彼』は私の中に存在してる。



それだけは確かなこと。


だって、他ならぬ私がそう感じているわけだから。