社長と秘密の生活



店員さんが立ち去った後、


「えっと、俺の用は済んだから帰るけど?」


彼は首を傾げて訊いてくる。


「えっ?私ですか?」

「うん。俺、仕事に戻らないと」

「はい…」


何でイチイチ私に訊いてくるの?


「俺、良くこの店来るんだ。また逢えたら、続き話そうね?」


見ず知らずの人と軽々しく話すのはどうかと思うけど、

やっぱり料理が好きな人に悪い人はいないハズよ。


「あっ…はい」


私は笑顔で返事をした。


「俺、一条シュウヤ。キミは?」

「あっ、私、佐久間杏花です」

「杏花ちゃんね?じゃあ、またね?」


彼は笑顔で去って行った。

…って、私………、

もう“佐久間”じゃないじゃん!!

咄嗟に訊かれて“一条杏花”って答えられなかったよ。