「あぁ。一条くんは…」
「…くんは?」
「いるけど、いないの」
「どー言う意味ですか?」
「要するに施設で育った子」
「…施設?」
「詳しくは本人しか分からないけど、でも一条くんは成績は優秀だから」
「…優秀?」
「そう。学年で3番に入るくらいの優才」
あんなに聞いてなにのに?
あんなに退屈そうにしてるのに?
あんなに眠りについてるのに優才なの?
松原先生から聞いた後もなんだかシックリと心は晴れなかった。
…いるけど、いない。
…施設で育った?
学校を出た頃にはもう22時半を過ぎていた。
帰る時間はいつもこんな時間。
だけど、今日はまだ早い方。
「…美咲センセ?」
低いバイク音とともに聞こえて来たのは今日何度も聞いたあの声。
振り返る先には銀色のバイクに跨る一条くんが居た。



