助手席に乗った私は被ってたパーカーの帽子をスッと剥ぎとり、シートに深く背をつけて窓の外に視線を送った。
お互い何も口を開かないまま発進していく車。
何を話していいのかさえ分からなく、ずっと窓から外を眺めてた。
でも、ただ分っているのは不意に零れ落ちた涙だけ。
何の意味かもそれに対しては分んないけど、頬を伝う滴だけ分った。
その滴をさり気なく手の甲で拭った私はゆっくりと目を閉じた。
「……き、美咲」
微かに揺れる肩の振動。
それに気づいた私はそっと目を開け、目の前に広がる視界を確認する。
「…あっ、」
深く背をつけていた身体を起すと、一面に広がる駐車場。
「どうしようか迷ったけど。…家が良かった?」
エンジン音に混じって聞こえてくるのは翔の声。
そう言われて、ここが翔のマンションの地下だとすぐに分った。
「あ、いや…」
思わず呟いてしまった曖昧な言葉。
ここが嫌だとも自分の家が嫌だとも分らない。
今の自分は結局何処でもいい。
そんな適当な答えしか見つからない。



