「帰ろ」
俯く先に見えるのは荷物が詰め込んであるバッグ。
その鞄を翔は掴み、反対側の手で私の手を握る。
翔に釣られて進む足が何故か重く、そして気づけば無意識のうちに足が止まる。
「…美咲?」
声と同時に振り返る翔。
「どした?」
続けられるその声に、ぐっと息を飲み込んだ。
「…ごめん、迷惑かけて」
また縋りついてしまった。
昔と同じこの光景。いくつになっても全然変わってない私。
「別に迷惑じゃねぇし。むしろ俺が来た事で迷惑だった?」
そう言われた言葉に俯いたまま首を振る。
「…ごめん」
「謝ってもらう意味も分かんねぇんだけど」
「…うん」
「うんって、余計にわかんねぇ…」
苦笑い気味で呟いた翔は更にグッと手を引いて足を動かす。
その所為で必然的に着いて行く足を私は必死で動かした。
波の音とともに肌を掠める風がやけに冷たかった。
冷たくて冷たくて麻痺しそうなくらい冷たかった手が今は温もりを感じる。
その温もりと感じるのはどうしようもない感情だった。



