「…また電話するから」

「うん」

「じゃあ…ね、…美咲」

「うん」


電話を切った後の静けさがたまらなくいい様には思わなかった。

切った後の葵の切なさそうな表情が目に浮かぶ。


そんな事を思いながら眠りに落ちた次の朝、未だに同じ位置にポツンと取り残されている鍵に目が離さなくなった。

結局は行けなかった。…と言うよりも最後の最後まで行かなかった。


行っていいものなのか悩んだ挙句、結局は行かないままだった。


多分きっと、それは翔も望んでいた事なんだと思った。

最後に言った“元気で”って言う言葉が、そんな風に感じたから。


私の性格上、きっとこの選択なんだろうって、翔にも分ってたのかも知れない。

分ってて私に言った言葉だったんだと、そう思う。


刻々と過ぎて行く時間。

私はその時間をひたすらソファーの上で過ごしてた。

得に必要な事以外はその場所で横たわってた。


出発時間に迫る夕方。

私は重い身体を起して、手に持てる分だけの必要な物をボストンバックに詰め込む。


それを肩に掛け、ふと目についたテーブルの上にある鍵に視線を向けた。