「うん、…そうだね」
「美咲に会いに行こうって思ってたんだけど、時間がなくて…」
「うーん…いいよ。仕事、行き初めで大変なんでしょ?」
「うん…」
「香恋ちゃんは元気?喜んで保育園行ってるの?」
「行ってるよ。帰って来たらグッタリだけどね」
「そっか…」
それを聞いて安心した。
慣れない生活は誰だって疲れちゃうから。
だからきっと相当、葵も疲れてると思う。
なのにこうやって気遣う葵の優しさが昔から変わってない。
「…美咲?」
数秒置いて電話口から少し嗄れた葵の声。
「うん?」
「ごめん美咲。…芹沢さんに――…」
「うん、知ってる」
そう言ってきた葵の言葉を遮って、私は深く息を吐き捨てる。
「ごめん。…芹沢さんと会った?」
「うん」
「そっか…」
得に葵はそれ以上深くは聞いてはこなかった。
それでどうしたの?とかも何か言われた?とかも何も聞いてはこなかった。
だけど、本当は私に聞きたいんだとは思う。
そうなんとなく私が思っているだけだけど、敢えて私からも何も言わずにいた。



