「…翔!!」
思い出したかのように私は声を上げて玄関先へ向かう。
既にドアに手を掛けていた翔は振り返って、私を見つめる。
「何?」
「どうしてそうなの?」
「何が?」
「だからどうして翔はいつもそうなの?なんでいつも私の意見を優先するの?」
留学を決めた時だって、私の思いを優先した。
行くなって、言わなかった。
なんでもかんでも私の事を先にして自分は後回し。
今回だって、なんで私の意見だけで行っていいって言うの?
勝手だとは分ってる。
今の関係だってあやふやで曖昧だって事も分ってる。
なのに。
なんであたしの事なんか…
「優先するとかしねぇとかじゃなくて、美咲の事だろ?美咲が行くって、そう思うのなら俺はそれを受け止めるしかねぇじゃん」
「……」
「美咲に…俺に対する気持ちがねぇのに着いて行くとも言えねぇだろ?だから美咲次第」
「……」
そう言って、一度ドアを開けた翔はもう一度閉め、
「あー…つかさ、ありがとう」
翔は振り返って、優しく口角を上げた。
「…え?」
「お袋の墓、行ってくれたんだって?」
「あぁ…」
「ほら、誰だっけ?名前分んねぇんだけど、美咲の生徒って言ってた。美咲と抱き合ってた男」
「…っ、」
思わず目を少しだけ見開いてしまった。
名前を聞かなくても分かる。
きっとそれは一条くんの事。



