「正直さ、」
随分経ってから先に口を開いたのは翔だった。
灰皿にタバコを打ち付けるその姿をボンヤリと見つめながら私は耳を傾ける。
「正直、美咲と一緒に居たって言う実感があんまねぇの。出会ってからじゃ6年以上経つのにその半分も一緒に居てなくて、考えてみれば1年くらいしか一緒に居てねぇし」
「……」
「でも、何でか知んねぇけど気持だけはやっぱ変わってねぇよ?この5年間の気持ち無駄にしたくねぇし」
「……」
「俺…、美咲みたいに強くねぇから一人で生きて行く自信ねぇよ」
「……」
「美咲が何も答えられなかったら別にいい。ただ時間ってもんがあって、美咲が行く前に返事だけほしい」
「……」
「それを認めた訳じゃねぇけど、これ以上俺からは何も言えねぇから。美咲が決めた事に口出しは出来ねぇから」
“だから、はい”
付け加えられた言葉とともにテーブルの上に差し出されたのは鍵。
その鍵から翔に視線を向けると、最後の煙を吐き出した翔はタバコを灰皿に押し潰した。
「行くまでの間いつでもいいから来て。そこにあるもので決めてくれたらいいから。来なかったらあっちに行っていいよ。…昼間だっら俺いねぇから」
そう言って立ち上がった翔はゆっくりと私に背を向けてリビングを後にした。



