「あ、ごめん。気づかなかった」
「大丈夫?美咲、疲れてんじゃない?」
「ううん、平気。多分、香恋ちゃんのほうが疲れてるよ?すっごく遊んだからね」
「ごめんね」
「ううん」
「上がっていけば?」
葵は後ろを振り返って、人差し指をリビングに向ける。
「いや、いいや。今日はもう帰る。また来るよ」
「そう?諒也に送って――…」
「ううん、いいよ。じゃーね」
軽く手をヒラヒラとさせるあたしに、
「ありがとう」
葵は笑みを漏らし手を振る。
バタンとドアを閉めた後、もう一度駅までの道を帰ろうとした時、ガチャ…と開く玄関のドアの音でもう一度振り返った。
「乗れよ、送る」
そう言いながら出て来たのは諒ちゃん。
アパートの前に停めてある車のドアを開いた諒ちゃんに躊躇ってしまう。
「おい、美咲」
「あー…」
「そんな躊躇うなよ。乗れよ」
「うん…」
言葉に甘えて乗り込んだあたしは、シートに深く背をつける。
「今日早いんだね」
そう言ったあたしに、「日曜だからな」と言って諒ちゃんは発進させた。
「それよか翔さんに会ったのかよ」
続けられた言葉にあたしは視線を外し窓の外を見つめた。