「まだだったらこっち」


そう言って流星さんは東の方向に指差す。

もう会いました。とでも言って、そそくさと帰れば良かった。


なんて思ってしまった。


曖昧な言葉のきっかけでこうやって案内される破目になり、顔を顰めていると、


「こっちだから」


流星さんは何故か私の手を引いた。


「えっ、ちょ、ちょっと!」


こ、困るから。

ホントに困るから。


確かに会いに来たのには変わりないけど、会わずに帰ろうとしたんだってば!

そんな心の声など聞こえるはずもなく、流星さんと一緒に足を進めた先は、“芹沢 翔”と書かれた扉の前。


そして深呼吸する暇もなく扉をスライドさせた流星さんは、


「翔、お届け物」


そう言って中に足を踏み入れた。


「は?余計なもん、いらねぇから」


そう淡い青色のカーテンの奥から聞こえるのはどう聞いたって懐かしい翔の声。

その瞬間、急に心臓がバクバクとし始めた。