「どうしたの?」
「あー…うん」
「何よ?」
「美咲さ、」
「うん」
「芹沢さんと話した?」
葵の口からおもいもよらない翔の名前を聞き、一瞬言葉に詰まる。
何で翔?そう思いながらもあたしは口を開いた。
「話して、…ないけど。それが何?」
「どうしようか迷ったんだけどさ、ちょっと小耳にはさんで」
“小耳”
また、それ?とでも言いたくなる様な言葉。
「何?どうしたの?」
「芹沢さんさ、ホスト業界に誘われてるらしいよ?」
「…――え?」
ちょっと間を置いた呟き。
翔がホスト?また戻るって事?
「たまたまパパの会社に行ってさ、誰かが話してたのを聞いたんだよね。ほ、ほら芹沢さんさ、ホスト止めても人気度まだまだあるみたい」
「……」
「で、そんな話がちらほら聞こえてさ。けど、あれらしい。ホストって言ってもオーナーとか代表とかそっち方向みたいな事言ってたよ」
「そ、そうなんだ…」
そんなの、知らない。
だって話してないもん。
「美咲、話した方がいいよ。トントン拍子に話が進んじゃってるかもだし」
「…うん」
電話を切った後、ソファーに深く背をつけて天井を見上げた。
…翔が、戻る?