「…ごめんな、さい」
乗った瞬間にポツリと聞こえた声。
その声が諒ちゃんにも届いたのか、一瞬顔を後ろに向けたのが分った。
だけど、諒ちゃんは何も言わずに車を発進させる。
冬の寒い所為なのか怖い所為なのか、どっちか分んないけど、震える天野さんの身体を私はそっと撫でた。
暫く走って見えて来た家に何故かホッとしてしまう。
家の前で停まった車から降りるとすぐに私は鍵を開けた。
「天野さんっ、」
車から降りてつっ立っている天野さんにそう声を掛けると、天野さんは少し顔を上げて諒ちゃんにゆっくりとお辞儀をする。
そして近づいて来た天野さんを家の中へ入れ、
「中、入ってていいから」
そう言ってドアを閉め、私は車の前で立つ諒ちゃんの傍まで近づいた。
「なんかごめん。巻き込んじゃって」
「いいけど」
「葵、心配してんじゃない?」
「もう寝てるだろ。それにお前と居るって、多分分ってると思うし」
「でも、ちゃんと言っときなよ。私じゃなく不倫してると思ってたら最悪じゃん」
「誰が不倫って?」
「諒ちゃんだよ」
「あのな、俺マジでそんな暇ねぇの」
そう言って諒ちゃんは呆れたようにため息を吐き捨てる。



