懐かしい場所に車を停める。

全然変わってないその風景。


車から降りると潮の匂いが鼻を掠める。

ゆっくりと打ち付ける波の音を耳に掠めながら、私は深く深呼吸をした。


「…懐かしいね」


先を歩く翔に私は声を掛ける。


「あぁ」


ここで翔のお母さんの話を全部知って、私が留学したいって打ち明けたのもここだった。

翔に行って来いって通帳渡されたのもここで、全部全部全ての始まりはここだった。


あの時と同じ場所で同じ位置に私達は座る。

人っ子一人居ない夜の海がいつの間にか私も好きになってた。


…きっと、翔と出会ってなかったらこんな風景なんて知らなかった。


「やっぱいいね、海…」

「あぁ。つーか、向こうの海はもっと綺麗だろ?」

「うん。凄く綺麗だった。透き通ってるしさ、…また何年経ってでもいいから行きたい」

「じゃあ、いつかは行こっか」

「え?」

「いつになるか分かんねぇけど、一緒に行こ?」

「うん…行けたらいいね」

「行けたらじゃなくて行くんだよ」

「…うん」


そうなればいいと思った。

先の事なんて分かんないけど、一緒に行けたらいいなってそう思った。