「そうじゃ、ないの…」
少しの沈黙を破って、私の口から出て来た言葉。
「は?」
案の定、諒ちゃんからは“何が?”とでもいいたげな言葉がすぐさま返って来る。
視線を向ける諒ちゃんと目が合うと、私は直ぐにそらしマグカップに手を添えた。
…そうじゃ、ないの。
もう、それはどうだっていい。
どうだっていいって言ったらおかしいけど、もう翔が入院してた事はいいの。
分ったから、分ったから。
翔が無事に退院したって事が分ったから、それはもういいの。
私が、私が思い悩んでるのはそこじゃない。
私が気にしてるのは、翔がホストを辞めた事。
って言うか、見ず知らずの女に“返せ”って言われた事。
私の存在で辞めたって、事なんだよ。
翔が違うと言っても、あの女が言った事には変わりなかったから。
そりゃ、翔が入院してるって事を知らなかったのも嫌で嫌で仕方がなかった。
知ってたらお見舞いにだって行けた。
けど、どっちみち私が居る事自体ダメだったって、そう思ったから。
「もう、いいの」
素っ気なく返した私は少しだけ珈琲を口に含みゆっくりと息を吐き捨てた。



