「…センセーどこ?」
タクシーから降りてすぐ、天野さんは目の前の家をボンヤリと眺めた。
「私の家」
「センセーの?」
「そう」
「あ…、なんかごめんなさい。私が居るからここに…」
天野さんは翔のマンションの事を気にしてるのか、顔を顰め少しトーンを落としてそう言った。
「いや、違うの。ここに住んでるから」
「え?ここに?」
「だって、私の家だし」
「あぁ…そっか」
あっちの事を気にしてるのか、天野さんは少し不思議そうに呟く。
「誰も居ないから適当にしてくれたらいいから。あ、その前にお風呂入る?」
そう言いながらリビングに入って、鞄をソファーに置く。
「私は後でいいですよ。センセー入ったらどうですか?」
遠慮気味にそう言った天野さんに、首を振りながら風呂場に向かう。
「いや、後でいい。なんか、気分悪い」
“弱いのに飲んじゃったからね”
付け加える様にして苦笑いする私は天野さんにタオルと部屋着を手渡す。
「センセー、ゴメンね」
「ううん。気にしなくていいよ」
パタンとドアを閉めた後、私はリビングのソファーに身体を預ける。
…ホントに、気分悪い。
だけど、そのお陰で今は何も考えなくてすむ気がして、良かった気がする。



