「そう思うのってさ、ただ今の現状が上手くいってないからそう思うだけだろ?」
「違うよ。辛くなるから。嫌だーって思ってたら辛くなるから。だったら辞めた方がマシ」
「それは違くね?辛いから逃げるんじゃなくて、逃げるから辛くなんの。その内、なんで悩んでたっけ?みたいになるって」
…それ、確か翔も言ってた。
「…案外簡単に言うね」
チラっと見た一条くんはタバコを咥えたままずっと遠くを見てた。
「追い込まれると人間ってそうじゃね?っつーか俺は美咲ちゃんに居てもらわないとダメだから」
「何で?」
「今より学校行かなくなりそう」
「何それ…」
フッと笑った一条くんにつられて笑う。
「でも美咲ちゃんが病んでる事ってそれじゃねぇだろ?」
「何でそう思う?」
「教師辞めたい如きに寂しそうな顔は普通しないっしょ?」
「……」
「それが原因で人と触れ合う教師が辞めたくなった。…違う?」
「……」
「何があったか知んねぇけど、彼氏と喧嘩でもした?」
チラっと私に視線を向けた一条くんは全て飲み干した空き缶にタバコを押し潰して入れる。
フーっと息を吐き捨てた一条くんは握っていた缶を地面に置き、ポケットに両手を突っ込んで手すりに背を付けた。
「なんかさ、日本に帰ってくるんじゃなかったって…そう思う自分がいる」
「何で?」
「こっちに帰って来てから色んな事がありすぎてついていけない」
「……」
「今から10年経って私が34になった時、きっとあの頃に戻りたいって思うんだろうな。戻ってやり直したいって、きっと思うんだろーなって思う。じゃなくてももう一度やり直したい」
出来る事ならずっと昔に戻って何もかもやり直したいって思った。
今思うと学生の時は何やってんだろって思う毎日で、それは今の自分でも何も変わってない。



