スッと諒ちゃんから視線を逸らす。
そのまま何も言わずに足を進めて行く私の背後から、
「おい、美咲!」
諒ちゃんの声が飛ぶ。
「何?」
「何処行くんだよ」
「何処って帰るに決まってんじゃん」
「翔さんの所にか?」
「そこしかないでしょ」
素っ気なくそう言った私は再び諒ちゃんに背を向けて足を進ませる。
だけど、そう言ったものの、翔が居るマンションになんて帰りたくなかった。
こんな気持ちのままで帰りたくなかった。
翔には私が相応しくないって言われて、私の存在で辞めたって言われて。
おまけに返せとまで言われたら帰る気すらなくて、翔に合わせる顔がない。
それに入院中あの女が見舞に行っていたって事すら嫌で仕方がない。
5年前の私じゃ、恋愛に関して億劫だったからあまり考えたりしなかったけど、でも今じゃ昔と全然違うんだ。
嫌な事は嫌って思うし、翔の近くにずっと誰かが居た事に胸が苦しくなりそうだった。
だけどあの女が言った事は正しくて、私は翔に何もしてないのが本当。
傍に居る事も何もしてないし、私の存在で辞めたって言うのなら正直、仕方がない事だって思ってしまった。
何もしてない私が言い返す事なんて出来ないから。
なにも。



