「とにかく、楓を返して!!あんたみたいな女に縛られたくないの!まだまだ絶頂期だったと言うのに…」
睨んだままフイっと顔を背けるようにして私に背を向けた女の姿を私はずっと見てた。
そして姿が消えた途端に深いどうしようもないため息が零れ落ちる。
翔に私が相応しくないって事くらい分かってる。
そんな事、前々から分かってる。
初めて会った時から、ずっと…
わかってるよ、そんな事。
けど、それを他人に言われたくない。
でも言われたからこそ、私が知らない事が分かった。
どうして何も言ってくれなかったの?
何で隠してた?
あの女に言われるより、“実は入院してた”って帰って来た時にでも言ってくれたほうがよっぽど良かった。
なのに、なんで?
そう考えてると苛立ちってもんを覚えてしまった。
こんな状態でマンションに帰れるわけがない。
ましてや、帰りたくもない。
真っ暗な夜空を見上げて深く深呼吸する。
苛々さを感じながら鞄の中からスマホを取り出し、いま会いたいと思う人に私はスマホを耳に押しあてた。



