丁度、私が旅立って3年目の春。
電話をした私に“会いたい”って、“今から行こうかな”って、そう言ってた事を思い出した。
たしか翔が27歳の誕生日の日。
その時は少し不思議だった。
そんなことすら言ってこなかった翔が少し寂しげにそう言ってた。
もしかして、あの時。
そうだとしても何も知らなかった半年間が、もどかしくて私の居なかった5年間に何がどう周りで起こってたのかなんてまるで未知の世界のように感じた。
私が知らなかったその半年間。
いや、この5年間はこの女の方がよく知っている。
ただその事を知らなかった自分が嫌と言うより、隠されてた事に悔しかった。
「とにかく!!」
意識が舞い戻るかの様に声を上げた女の声で現実に引きもどされる。
何気なく視線を向けた先に見える女は眉間に皺を寄せ、更に口を開く。
「アンタが居なかったら楓は辞めてなんかいなかった。ましてやずっとトップを保ってたのに辞めないでしょ?」
「……」
「病院にも一度も顔ださないし、そんなので彼女って言えんの?正直言ってアンタは楓に相応しくない!」
「……」
「半年間、ずっと私が楓の看病してた。その後だってNO1からずっと離れてたけど、それをトップに導きだしたのは私!!」
「……」
「私なんだよ!!」
正直、返す言葉なんて何もなかった。
だって、よく考えてみれば私は何も知らない事ばかり。
私が翔の彼女だなんて、そう思ってても何もしてない自分だからこそ、返す言葉なんて一つもなかった。
目の前でそう言ってる女が正しいって、少しはそう思ったから。
情けないと言うより、自分が悔しくて悔しくて仕方がなかった。



