おもいっきり睨んだ私は、きっと怒りの“怒”を越えていた。
だけど一向に足を進める気がないこの男を私は素っ気なく顔を逸らし、玄関のカギを差し込んだ時、
「…一緒に住まないか?」
申し訳なさそうにそう言って私の腕を掴んだ。
「障んないでっ!」
咄嗟に払った男の腕。
何が、何が一緒に住もうって?
馬鹿馬鹿しいのにも程がありすぎる。
一緒に住むほど、私はもうそこまでの子供じゃない。
私の事、何歳だと思ってる?
「…美咲」
「何で私がアンタと住まなきゃいけないんだよ!ママが亡くなったからって今更父親きどりしないでよ!」
「すまない。…これ」
そう言って鞄の中から出されて差し出されたのは通帳。
ジッと見つめる私に、
「家の事もあるし、何かの足しに出来たら――…」
「だから!」
そう声を張り上げた私は一旦口を紡ぎ、深く深呼吸をし再び口を開いた。
「だから言ってんでしょ?帰ってって…。私には父親なんていないって言ってんじゃん。むしろ、アンタを父親だなんて思いたくない!」
「……」
「アンタがっ、アンタがママを殺したんだよ!」
涙なんて出ては来なかった。
でも身体は震えてた。
誰かの所為にしなくちゃ、誰かの所為にしなくちゃ…
今は感情を抑える事が出来ない。
この男がママを捨てなければ、ママは寝ずに働くこともなかっただろう…
倒れるまで働くことはなかっただろう…



