「あ、吸ってい?」
「いいよー。って言うか前までだったらそんな事すら聞かなかったのに」
「そうだっけ?」
「そうです」
「一応礼儀」
「諒ちゃんに礼儀は凄くかけ離れてますけど」
そう言って灰皿を置く私に、「サンキュ」と言って、諒ちゃんは自分の方に灰皿を引きタバコに火を点けた。
「仕事、そんなに忙しいの?」
マグカップに珈琲を注いだ私は諒ちゃんの目の前に置く。
「あぁ」
同じくマグカップを持った私は諒ちゃんの前に腰を下ろした。
「そっか。営業って難しそうだよねぇ…ノルマとかあんの?」
「いや、そう言うのはねぇけど俺、太客いっぱい持ってっから楽勝」
「太客?諒ちゃんにそんな客いんの?」
「いるいる。翔さんのツレがいっぱい居っから大金いっぱい落としてくれんだわ」
「もぉ、なにそれ」
クスクス笑う私に諒ちゃんはタバコを咥えて頬を緩めた。
「普通に高級車に一千万とか落としてくれる」
「もー、ほんと未知の世界だわ。でも色々と大変そうだね」
「大変って、お前も大変だろーが」
「うーん…なんかそれがあまり思わないんだよね」
「あー…あれか。昔頑張り過ぎた所為で麻痺してんだよ」
「何それ…」
「ま、でもあれだ、あれ。美咲のお袋も喜んでたからな、お前の成長に」
「どうだろーね…」
注いだ珈琲から出る湯気をボーっと見つめた。
留学から帰って来たばかりで、こんな事になってしまったら、もう何も聞けないし何も言えないじゃん。
たった3カ月。
3カ月しか会えなかった。
もっと、もっと未来の想像は楽しく笑ってる姿だったのに…



