「分かんないけど、もう…居ないんだ」
「そんなっ、」
潤んだ瞳を隠す様に葵は手で顔を覆う。
「葵が…泣く事ないじゃん」
「だって…」
「昔っから変わってないね、その私の事で泣くの」
そう言って私は少しだけ笑みを漏らす。
「そんな変わるわけないじゃん。変わったのは美咲だけ」
「私?」
「優しくなった。前も優しかったけあの頃の強がってた美咲はいなくなった」
葵は手で覆ってた顔を出し、私にニコッと微笑んだ。
「そっか。…自分では分かんないけど」
「美咲が分かんなくても皆分かってるよ。でも、それより…身体大丈夫?」
「うん。薬飲んだし月曜に病院行くだけ」
「…そう」
「あ、そうだ。でさ、ママには言わないで」
「え?」
戸惑った感じで葵は私を見た。
何でって、不思議そうな顔で私を見た。
「あー…ほら。言っちゃうとさ、今の笑顔のママを傷つけそうで怖いの。喜んでるママの顔を奪うのはちょっと精神的にきつくて…」
「…そっか」
「あっ!もしかして諒ちゃんに言った?」
「ううん。昨日は遅かったから何も話してないの」
「そう。だったらこのまま言わないでほしい」
「けど、美咲のママが…」
「うん。そうなっちゃうと仕方ないよ。この事、話してもいいけど、ママだけには言わないでって口止めしてほしいの。…お願い」
「…うん」
気力がないってくらいの呟きで葵はゆっくりと頷いた。



