「でも、私は何も思わない」
「センセ―って、やっぱ変なの。普通なら辞めろって言うのに…」
「……」
「あ、もしかしてセンセーもしてたとか?」
「…え?」
「って、そんな訳ないよね。センセーはお嬢様って感じだし、お金になんて困った事無いでしょ?」
「……」
「彼氏はあのイケメンホストだったし、幸せだし何も言う事ないじゃん」
「……」
「産まれた時から幸せな人ってさ、挫折って言葉なんて全く知らないからさ。ほんと笑っちゃう」
…私がお嬢様?
心おかしくなってしまって、内心笑ってしまった。
もちろん過去を知らない人からすると、そう見えるのかもしれない。
今は幸せだし、お金にも困っていないし余裕もある。
それなりに楽しいって思える自分が居る。
でも。
あんなに苦労してた私がお嬢様って、考えただけで笑える。
そんな風にとってしまったら過去もなにもないじゃん。
ただの水の泡。
「あー…でも誰がどう言っても辞めるつもりなんてないから」
そう言った天野さんはスタスタと歩き、私との距離が少しづつ開いていく。
何も…何も分かって無いのは今出会った人達ばかり。
あんだけ泣きそうなくらい我慢して強がってきた過去を今は誰も知らない。
今は幸せそうにそんな風に見えてたとしても、過去の記憶ってそう簡単には消えない。
お金もなくて身体売って、強がって周りに迷惑掛けて…
そんな日々を繰り返してきたのに、そんな嫌な過去を抱えてんのに、天野さんは私の全てを幸せだと言う。
だからと言って、昔はねって、話せる余裕すらなかった。



