「…翔?」
車体に背をつけてスマホを触ってた翔は、私の声に気づき顔を上げる。
「あ、おかえり」
口角を上げた翔はスマホをポケットに突っ込んだ。
「どうしたの?」
「うーん…大丈夫かなって心配してたから」
「あ、…うん。昨日はごめんね」
「うん?」
「冷静じゃない自分だった」
あれ以来、翔とは会ってはいなかった。
取り乱すだけ取り乱して、それ以降、翔とはすれ違いで会わないままだった。
「ちょっとは落ち着いた?って、んなわけねぇか」
「……」
「お母さんの病院行ってきた。今は辛うじて話せるくらい」
「そう…ありがと」
「乗れ――…」
「あ!!美咲センセ!?」
翔の声を遮って聞こえたのは弾けた声。
ゆっくり視線を向ける先には笑顔の天野さん。
だけど近くまで来た天野さんは小さく「あ…」と声を漏らした。
翔の存在に気付いたのか、天野さんは軽くお辞儀をする。
そんな天野さんに向かって翔は口角を上げ、同じくお辞儀をした。
「今から帰るの?」
「はい」
天野さんはそう言って薄ら笑う。
「あー…家まで送ろうか?って、私が運転するんじゃないけど」
苦笑い気味で翔の車を指差すと、
「送るよ?乗ってけば?」
翔はそう言って口角を上げた。
「あ、いや…大丈夫です」
「いいの?ホントに?」
「はい。じゃ、美咲センセまたね!さよなら」
そう言った天野さんは手を振って私達の前から姿を消した。



