オアシスはネイトが元々いた街とはまったく違っていた。
街の結束が強く、このオアシスに住んでいる全員が親戚であるかのようだったが、ネイトのようなよそ者でも喜んで受け入れてくれる寛容さもあった。
また、砂漠の独特な気候のせいか、昼と深夜は皆家に閉じこもってしまうが、朝と夕方から夜にかけては活気があった。
物心ついてから砂漠に捨てられるまで、ネイトは貴族の所有物だった。
魔道種という、希少な生き物。
珍しい淡い青い髪に緋色の瞳。
そして魔道種の特徴の一つである整った顔立ち。
それら全ては貴族が求める希少な価値であり、重要な装飾品の一つとして、高値で貴族に売られ、自分の意志に関係なくさまざまな貴族のもとを転々としていっていた。
求められたことは、何も口答えをせず、自分からしゃべらないこと。
しかし美しい歌声で主人を喜ばすこと。
余計なことはせず、ただ主人の傍らで人形のように微笑み、仕えること。
そして、主人の機嫌を損ねないこと。
しかし、ある伯爵夫人に買われたとき、ネイトの美しさに惹かれたその息子の要求を拒んだことで、ネイトはその息子の不興を買ってしまった。
ただの装飾品が、自分の息子と関係を持つことを伯爵夫人は快く思うはずがないと思ってのことだったが、その息子はネイトが不敬だと怒り、ネイトを遠い砂漠に捨ててしまえとある魔法使いに依頼した。
魔法使いは砂漠を旅し、商売をするキャラバンにネイトを預けると、さっさと帰ってしまった。
砂漠では魔道種は恐ろしいものだと思われているらしい。
ネイトを砂漠の真ん中に捨てたキャラバンの人たちは、ネイトに近寄ろうとせず、食べ物も水さえも与えず、拠点から遠く離れた場所で無造作に捨てて行った。
魔道種は死ににくい。だけど、渇きを知らないわけではない。
苦しみを少しでも忘れるためにネイトは眠り続け……そして、レシェフに拾われた。
眠っていても聞こえていた。
優しく語りかける声を。
だからネイトは今もレシェフについて行っていた。