エンはオシリスと手をつなぎ湖のほとりに向かった。
湖はドーナツ型で、中心に浮き島がある。
そこが儀式場だった。
ネイトはピンク色の踊り子のような衣装を着ていた。
ヴェールをかぶっているが、その衣装はネイトの空色の髪に良く似合った。
すぐ近くにコウとレシェフもいた。
「母様ーっ!!父様ーっ!!」
オシリスがめいっぱい叫んで空いてる方の手を大きく振った。
ネイトがそれに気付いて歌うそぶりを見せた。
すると一瞬の浮遊感の後、エンとオシリスはネイトのすぐ前に呼ばれていた。
「来てくれたのね、嬉しい」
ネイトはエンに微笑み、
「せっかくだから……」
エンがぎこちなく微笑み返した。
レシェフは憮然とした表情で純白の衣装を着ていた。
エンはそれを見たことがあった。
たしか、神殿に所属する神官着だったはずだ。
とすると、レシェフは神官なのか、とエンは少なからず驚いた。
「エンとコウは歌が良く聞こえる特等席に招待するわ。ふふ、こっちよ」
ネイトがエンの手を引く。
ネイトの衣装のあちこちについた鈴が動きに合わせてしゃんっと鳴った。
そこは浮き島だけでなく、オアシスで一番大きな木の根元だった。
「登れる?」
エンとコウはうなずいた。
人間とは違うので浮かぶくらいは容易にできる。
「この上にね、祭壇が良く見える場所があるの。探せばすぐ見つかるはず」
ネイトはそう言うと、手を振って去っていった。
エンとコウが祭壇のよく見える場所を見つけたとき、3人は既に祭壇の上に立っていた。
そして初めにレシェフの朗々たる声が響いた。
「かしこみ奉る。神世よわれらの近くに来たまえ、声が、歌が届くように」
エンとコウにはわかる神気がオアシスを風となって吹き抜けた。
そしてネイトは歌いだした。
美しく透明な歌だった。
途中からオシリスも合わせて歌いだした。
ネイトの歌声と絡んで、どこまでも響かせるような魔力を帯びた声だった。
最後に二人は高くのばして声を途切れさせる頃、雨が降り出した。
雨はやがて勢いを増し、土砂降りとなってオアシス付近の砂漠一帯に水を恵んだ。
ネイトとオシリスの歌を聴いていた人々は歓声を上げた。