ネイトは自分が使った寝袋を慣れた手つきでたたみながら、そっと背中合わせになっているレシェフを見た。
オアシスで暮らしているのに、レシェフは旅人のような全身を覆うローブを着ていた。
背は高く、フードを取れば長い銀髪を後ろで束ねているのがわかる。
肌は浅黒く、誰もが一目で砂漠に生きる人間だとわかっただろう。
何故か頬に薄紫の入れ墨のようなものがあったが、なぜ、なんのためにあるのか、ネイトはわからなかった。むやみに聞いてもいけない気がしていた。
いつの間にか、じっと見つめていたらしい。
寝袋をたたみ終えたレシェフが振り返った。
「あ、おはようございますっ」
気恥ずかしさから、慌ててネイトは挨拶したが、レシェフは応えず、ネイトから視線を外して次の作業に移ってしまった。
それを寂しい気持ちでネイトが見つめていても、レシェフはそれに一向に気づかず、淡々と作業を進めるだけだった。
その作業が終われば、レシェフはネイトを待たずに家を出て行ってしまうので、ネイトは慌てて寝袋を片づけると、いまだに慣れない砂漠特有の衣装に着替えた。
柔らかい絹の衣装に、自分の瞳を隠すヴェール。背中に流れるそれは袖と連結していて、袖に付けられた鈴が鳴ると、ヴェールもふわりと風になびいた。
砂漠に住む、踊り子とも貴族の姫ともつかない自分の恰好に恥ずかしさを感じると同時に、どうしてこんな高価なものをレシェフが自分のために用意してくれたのか、ネイトにはさっぱりわからなかった。
レシェフはネイトを拾い、育ててくれたが、ネイトのことを嫌っている……いや、恨んでいるようにさえ思えたからだ。