レシェフが『それ』を拾ったのは偶然だった。
砂漠に半ば埋もれるようにして眠っていたその少女は、レシェフが見つけなかったら毒虫に噛まれるなり、陽射しや熱気にやけどをするなりして3日と待たずに死んでしまっていただろう。
「どうして、ここで一人なんだ」
レシェフは答えられるはずもない問いを投げかけ、手を伸ばした。
「好きに望め。また生きたいと思うなら……」
レシェフは少女を抱き上げた。
ぼろぼろのドレス、日に焼けていない白い頬、長い睫と短くざんばらに切られた髪は、珍しい空のような淡い青色。
眠っていても強く残る可愛らしい面影。
どうしてこの恰好で砂漠に残されていたのかはわからないが、レシェフは少女を連れてきたラクダの背に乗せると、手綱を引いてゆっくりと来た道を帰って行った。
少女が、レシェフの家で目を覚ましたとき、レシェフは眉をひそめた。
知らないはずがない、わからないはずがない、忘れるはずもない。
少女の瞳は緋色で、それは人間とはまったく違う存在である証だった。
人間と同じ見た目、しかしその人ではあり得ない瞳が示す通りに決定的に違う……その少女は魔道種と呼ばれる存在だった。
砂漠に埋もれて眠り続けても、決して死ぬことはないはずだ。
魔道種が死ぬのは、自らの魔力に呑まれ、自滅するときだけなのだから。
少女はのろのろと体を起こすと、レシェフに微笑みかけた。
「私はネイト。……あなたは、誰?」