なんでもねぇことないだろ。
…だけど、誰だって聞かれたくないことはある。
なんでもないって言ってるんだし、そういうことにするしかねぇ。
「ごめんね。ベッド借りちゃって…部屋戻るよ」
「……ここにいろ」
「え…?」
「寂しいんだろ? ここにいていいから」
女の涙を拭き取った。
軽く抱き寄せて背中を優しく摩りながら聞く。
「…ありがとう」
「ん……名前、聞いてなかったな」
「あ…うん。黒田杏里(くろだ あんり)」
「杏里な。俺は西野琉(にしの りゅう)」
黒田杏里…。
改めて見ると、すげぇモテそうな顔。
背中の真ん中あたりまである色素の薄い茶髪にでけぇ目、ぷっくりした赤い唇にピンクの頬。
「…琉君…」
「琉でいい」
「……うん」
眠そうに返事をした杏里は俺の名前を何度もつぶやいた。
「…眠いんだろ、寝ろ」
「うん…」
「って、どこで寝ようとしてんだよ…。ベッドで寝ろ、ベッドで」
フローリングに寝っ転がった杏里。

