のたお印の短編集

勢いよく落下していく男の体。

あと数秒後には、彼の体は岩場に叩き付けられ、無惨な屍を晒す事になる。

しかし、それをさせない者がいた。

「うっ!」

突然の衝撃。

片足の膝、股関節が抜けそうなほどの痛み。

見れば男の足首に、太い触手が巻き付いていた。

「困るな、勝手に自殺されちゃあ」

崖の上から声がする。

触手を辿っていけば、それは崖っぷちに立つ一人の異形の右手から伸びていた。

4号。

青色の甲殻状の装甲を持つ彼は、右腕を状況に応じて触手や爪、棘などに変化させる事が出来る。

「まぁ自殺しようにも、お前は死ねない体だけどな」

別の声が、逆さ吊りの男の耳に届いた。

驚くべき事に、その声の主は崖の中程、空中に浮遊している。

8号。

翡翠色の甲殻を持つこの異形は、両腕の間に皮膜を張る事で、空中を滑空する能力を持っていた。