レンタル彼氏 Ⅱ【完結】

こんな時間においしいケーキ屋なんてあるわけないじゃん。
だって、もう八時過ぎてるし。

案の定、私を連れて来たお店は閉店していた。


「…………閉まってる」


「当たり前じゃん」


「…………ケーキ…」


「…………」

がっくりと肩を落とす聖。
こいつ、自分が食べたかったんだな?

だけど…。

「その細い体でケーキとか…。
よく太らないよね」


「なぜか太らないんだよね。
って、今の会話デジャヴュ!あれ、誰としたんだ?」


「…色々な人に言われるでしょ」


「うーん、うーん……」


呆れ気味に言う私の話を全く聞かず、聖は首を捻っている。

……全く聞いてない。
だって、そんな体で思うじゃんか。
私より細く見えるし。それが更にムカつくけど。


「あっ!思い出した!」

誰かわかったのか、すっきりした顔で聖が私を見る。
人差し指を立てて、自慢気に言った。


「伊織と話したんだ!」


「伊織?!?」

その名前にガバッと、聖の両肩を掴んだ。
多分、相当切羽詰まった顔をしていたに違いない。


「………い、伊織…」


私の様子に目を真ん丸にしながら、聖はおずおずと言う。

「伊織って…、…友達?」


「……まあ、友達?かな」


…………でも。

一緒の名前なんて…いるよね?
勘違いだよね…?

聖の肩を掴みながら、私は伊織の名前に過剰に反応し過ぎたと、冷静になってから思った。