駄目だ――私がこの人の頼みを断るなんて、出来るはずがないのだ。



「……わかりました。何とか考えてみましょう」

「ありがとうございますっ!」


席を立った桐原さんが、私の手を取ってぶんぶんと上下させている。

背の高い彼が急に動いたことにより、周囲の視線を集める中、私はいろいろな意味で苦笑いする他なかった。



その場で簡単な打ち合わせをした内容はこうだ。


まず、桐原さんはファッションにまったく無頓着であるということ。

どんな役柄が回ってきてもいいように、普段から自分をニュートラルな位置に置くよう心掛けていると語ってくれた。

場合によっては、坊主頭でもピアスを開けることも、女装ですら厭わないというのだから、その役者意識は相当なものだ。

それから、撮影に関わるヘアカット代および衣装代は、経費として下りるので多少値が張っても構わないということ。

そして最後に、今回演じる赤道周のイメージカラーである赤を衣装に盛り込みたいとのことだった。



その後居酒屋のバイトがあるという桐原さんと別れた私は、その足で駅前の大型書店に立ち寄った。

改めて声優雑誌のグラビアを研究するため。


参考になりそうなものを数冊購入し、自宅でじっくり写真の端々に目を走らせる。


なるほど、桐原さんの言うとおり、ヘアメイクは付いていてもスタイリストまで付けている写真は少ない。

逆にヘアメイクすら付いていないグラビアがある一方で、衣装協力まで書いてあるものもあった。